二宮和也主演の恋愛もの、しかもビートたけしが書いた物語と聞いて興味をもったこの一冊。
とてもきれいな物語で、映画ではきっときれいな絵になっているのだろうなと思うシーンがたくさんありました。
あまり純愛ものに触れない私ですが、たまには読んでみるのもいいな。
概要・あらすじなどを含め、私の感想を書き記します。
- 二宮和也が主演の映画原作に興味があったから
- ビートたけしの描く純愛がどんな物語か読んでみたかったから
書籍情報・あらすじ
書籍の基本情報
書籍名 | アナログ |
---|---|
著者名 | ビートたけし |
出版社 | 単行本:新潮社/文庫本:集英社 |
出版年月日 | 2017年9月22日 |
頁数 | 171ページ |
あらすじ
デザイナーの水島悟はある日、自らが内装を手掛けた喫茶店「ピアノ」で謎めいた女性、みゆきと出会う。似たような価値観を持つ彼女に徐々に惹かれていく悟。
引用:Amazon商品ページ
意を決して連絡先を聞くも「お互いに会いたい気持ちがあれば会えますよ」と言われ、毎週木曜日にピアノで会う約束を交わす。多忙な日々の中、ゆっくり関係を深めていく2人。
しかし突然、彼女はピアノに現れなくなり……。珠玉の恋愛小説。
お散歩しながら、聴く読書。
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本を読んだ感想
現代的でない?友情のかたちをどうとらえるか
主人公の悟とその親友である高木、山下。
三人の関係性は、現代的ではないな…と私は正直、感じていました。
仕事が終われば頻繁に飲み屋さんに集合し、何でもないことや下ネタを話す。
会話には現代的でないレトロな感じがあり、同じお店にいて隣からこんな会話が聞こえてきたら、少し不快に感じてしまいそうな内容です。
三人のやりとりを読んでいて、この小説っていつ頃が舞台なんだろう?けっこう昔?と思ってしまったほどです。
読み進めるうちに舞台はだいたい2015年くらいということが分かるのですが、そうなるとこの友情の形がやはり違和感となって気になってきます。
三人に限らず悟とみゆきとの会話の中にもたびたび、古き良きお笑いや落語、クラシック音楽のことが出てきます。
作者のビートたけしが若い頃にしていた会話も、きっとこんな感じだったのかな…と思わせてくれる要素がたくさん。
そういう楽しみ方をしつつ、この小説に出てくる人間関係のことを私はこうとらえることにしました。
アナログな生活を好む悟とみゆき、そして彼らの好む人間関係もまたアナログで、古風で、あたたかみのあるもの。
悟の友人・高木と山下は、言ってしまうとちょっと下品なところもある二人ですが、
彼らに会ったみゆきがすんなりと二人を受け入れられたのは、きっとみゆきが人の深いところを見ることのできる女性だからなのかな。
実際、悟の友人たちは雑なところもあるけれど、とてもあたたかいのです。
いつもはお互いにからかいあうけれど、悟に何かあれば心底心配したり、困っているときや悲しいときは力になってくれたり。
この小説におけるアナログの意味が、登場する人間関係に示されているような気がしました。
「すいません。こんな排気ガスとホコリの中で、黒くよどんだ海を見てもつまらないですよね」
すると彼女は、海をじっと見ながら、
「海が青く光ってなくても、空気が澄んでなくても、道路が車でうるさくても、気にすることないですよ。そのお陰で光る海の美しさや素晴らしさが分かるんですから」
と独り言のようにつぶやいた。
引用:『アナログ』
デジタルは、アナログを助けるためのもの
この物語にはアナログな生活や関係性が色濃く出てきますが、だからといってデジタルを否定しているわけではありません。
悟はアナログな生活を好みますが、その生活を守るためにはデジタルに頼ることも必要。
やっと見つけたみゆきのもとへ駆けつけながら、離れていても仕事に穴をあけない仕組みを作ってくれたのはパソコンやネットワーク。
みゆきを支える生活のためにも、悟が家で仕事のできる環境を整えるにはそういった新しい仕組みが必要でした。
この小説におけるデジタルは、アナログを支えるもの。うまく利用し、その人が本来大切にしたいと思う時間を味わうためのもの。
デジタル化社会、それ自体は本当に便利なものであるからこそ、意味やありかたを見直したい。
アナログが素晴らしいものでデジタルはそうではない、という対比として存在するわけでなく、上記のような役割で描かれている点が私は好きです。
みゆきは母であり、菩薩。支えることで支えられる悟
みゆきは悟にとって、崇高で穢れのない存在として描かれています。
もちろん二人の関係は恋愛なのですが、性を超えたもう少し静けさのあるもの。
みゆきは母のようなあたたかさをもち、そっと悟に寄り添い、包み込んでくれる人。
悟はみゆきをやっとの思いで見つけ出し一緒に暮らすようになりますが、彼女は以前と同じではありません。
悟は知らなかった過去と一緒に、思いがけない現実をも突きつけられてしまいます。
それでもみゆきと一緒にいることを選んだ彼は、彼女の中に亡き母を見ていた…というのは私の想像です。
悟はきっと、亡き母にしてあげられなかったことをみゆきにするだろうし、そうすることで彼自身も支えられていくでしょう。
私にはみゆきがとても美しい存在に見えていたのですが、悟にとってもきっとそうなのですね。
みゆきは悟にとって、究極の理想の女性像でもあるのかな。
そんなふうに思うほど、みゆきの描写は美しいのです。
おわりに
最後に、この本を読んで私が感じたことを素直に、率直にまとめます。
- アナログとデジタルを対比させるのではなく、両立させる描き方がよかった
- みゆきがどんな姿でも、彼女を支えることで強くなる悟。二人の関係が優しい
- いい人間関係はやはりアナログが作るのかもしれない
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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