『コンビニ人間』は、第155回芥川賞を受賞した話題作です。
スラスラと読みやすい文章ですが、私には理解の難しいところがたくさんあり飲み込むのに苦労した一冊。
文章の意味はもちろん分かるけれど、本当の意味ではちっとも理解できていないように思います。
感想をまとめた今でも。
- 芥川賞受賞の話題作を読んでみたかったから
- 『コンビニ人間』というどこか不気味なタイトルが気になっていたから
書籍情報・あらすじ
書籍の基本情報
書籍名 | コンビニ人間 |
---|---|
著者名 | 村田 沙耶香 |
出版社 | 文芸春秋 |
出版年月日 | 2018年9月4日 |
頁数 | 176ページ |
あらすじ
「いらっしゃいませー!」お客様がたてる音に負けじと、私は叫ぶ。古倉恵子、コンビニバイト歴18年。彼氏なしの36歳。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる。
ある日婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて…。現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作。
引用:Amazon商品ページ
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本を読んだ感想
「彼女にはない」、ただそれだけ
古倉さんには、喜怒哀楽も、好き嫌いもほとんどない。
超のつくほど合理的なやり方で物事を解決しようとする彼女の性質、それは一体どこからきたのでしょうか。
私は無意識にそれを知りたいと思って読み進めていたし、何か理由があると思いこんでいました。
なので、彼女自身から「普通の家に生まれ、普通に愛されて育った」と語られたとき、
そうなの?? と、私はとっさに思ってしまったのです。
普通に愛されて育った。それなのに、彼女はこうなの? と。
「それなのに」と思うこと自体が、こういう性格になるからには生まれや家庭に何かあるはずだという思い込み、そうでないと説明がつかない、納得できないという私自身の先入観だったのです。
この世界の「普通」のルールに、読者である私もまた彼女を当てはめようとしていました。
ここでまず、そうか、彼女にはもともと「ない」のだ とわかりました。
何が「ない」のか? それをひとことで言い表すことは、とてもできないように思います。
彼女の家族、周囲の人々の思い
古倉さんは悪くないけれど、彼女のまわりの人々は正直怖いかもしれないですね。
特に家族は、他人に対しても、自分自身に対しても何をするかわからない彼女に緊張感を抱かざるを得ません。
だって、彼女は物事を解決しようとするときに一番合理的な手段を選ぶのです。
他人を傷つけること、痛めつけることであっても、それが最も合理的だと思えばそうするのですから。
問題の原因が自分だと思えば、きっと自分を痛めつけることも何とも思わずにやるでしょう。
私が彼女の家族でも、「治ってほしい」と思ってしまうだろうな…
でもそれは、治る性質のものではきっとないのですよね。
先ほどの項で触れたように、彼女はこういうものだからです。
この世界の暗黙のルールが染みついている「普通の人」には、彼女に何が「ない」のか、あるいは「ある」のかが分からない。
それが分からなければ、この世界のマニュアルを彼女に与えることもできません。
その「何か」のブラックホールの存在に静かな恐怖を抱きながら、彼女と一緒にいることになります。
白羽さんの存在によって際立つ彼女の性質
白羽さんと彼女はお似合いだとまわりに言われているし、お互いの存在が生きていく中で「便利」と感じている点は一見似ています。
でも実は、そうでもないと思うんです。
白羽さんが他者を批判して自分を守るのはそれだけ自分に対する執着があるからで、それは自己愛ともいえる。
自己愛があるということは、他者にそれを向ける素養もありますよね。
白羽さんはなにかというと縄文時代の話を持ち出し、人間も動物だと主張するけれど、彼自身はとても人間らしいと感じます。
では、古倉さんはどうでしょうか?
食や性にも興味がない彼女は、動物的というよりもはや機械的。
他者にも、あくまで観察対象としての関心しかありません。
両親や妹に対しても、家族としての愛情があるというより「よくしてくれる彼らを困らせたくないから」という思いで接しています。
「じゃあ、私は店員をやめれば治るの? やっていた方が治ってるの? 白羽さんを家から追い出したほうが治るの? 置いておいたほうが治ってるの? ねえ、指示をくれればわたしはどうだっていいんだよ。ちゃんと的確に教えてよ」
引用:コンビニ人間
なんだか胸がきゅうっとする台詞ですよね。この切実で純粋な問いが、なんだか悲しい。
これほど、彼女にはこの世界のルールが分からないのです。
分からないから、言われたとおりにするから指示がほしいと言っているんです。
だから、全てマニュアル化されている「コンビニ」という場所が居心地よい。
彼女はコンビニと出会って、「コンビニ店員」という生きものになることで生きている。
人間でも動物でもなく、コンビニ店員という生きもの。
一見似ている白羽さんの存在によって、古倉さんのその性質がより際立つものとなっています。
彼女は幸せなのか?
古倉さんの生き方を読み進めて、私は思わずにはいられませんでした。
彼女は、幸せなのかな?
自分にも他者にも寄り添うことなく、衣食住に興味があるわけでもなく。
どうすれば自然にこの世界に馴染んでいるような振る舞いができるか、大切なのはその一点だけです。
そして、それを叶えられるのはコンビニだけ。
でも考えてみれば、誰もがそういうものかもしれないとも思います。
私だって、自分の意志だけで何かを決めることなんてあるだろうか?
自分の意志と、そこに人間の世界の「こうあるべき」という暗黙のルールとを照らし合わせて、ちょうどいい加減のところを狙って何かを決めているような気がします。
彼女は幸せか? なんて考えることが、なんだか傲慢なことに思えてきます。
じゃあ、私は幸せか? あなたは幸せか?
この世界の暗黙のルールを知って、それに馴染むことに苦しんでいないか?
そう思うと、彼女だけが異質なわけではなさそうですね。
おわりに
最後に、この本を読んで私が感じたことを素直に、率直にまとめます。
- これまで読んだことのない、未知の怖さを感じる物語だった…
- 古倉さんのことを考えると、胸が苦しい。切ない。
- でもきっと、私自身もどこかしら異質なのだろう
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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