- ノンフィクションの物語を読みたい人
- ある家族のものすごい生き方に心を動かされたい人
概要
タイトル | アトムの心臓 「ディア・ファミリー」23年間の記録 |
著者 | 清武 英利 |
出版社 | 文藝春秋 |
【娘の心臓に残された時間はたった10年――】
生まれながらに心臓に疾患を持っていた娘は、医師から余命10年を宣告される。
何もしなければ、死を待つだけの10年。これを運命だと諦めるか、抗うか。
町工場を営む筒井宣政は、家族と共に「人工心臓をつくり、娘の命を救うという不可能」に挑むことを決意する。
筒井夫婦は人工心臓開発のための知見を集めるべく、日本のトップクラスの研究者が集う研究会や大学病院を訪ね歩き、東海メディカルプロダクツを設立。徐々に希望の光が見えてきたのだが――。絶対に諦めない家族の途轍もない挑戦を描いた、実話をもとにした感動のノンフィクション。
引用:『アトムの心臓「ディア・ファミリー 23年間の記録」』
本を読んだ感想
※本作はノンフィクションであり登場する人物は実在しますが、ここでは敬称略とさせていただきます。
筒井氏の勇気と推進力
佳美の病気が発覚し、父である筒井宣政は動き出します。
もちろん我が子に病気が見つかれば、それがどんなに難しいことでも親は救いたいと思うでしょう。
自分が引き継いだ会社でできることを考え、佳美を救うためのお金の工面に奔走。
いつしかそれを超え全くの専門分野外である医療業界にまで手を広げ、病院や心臓の研究会に自ら出向いて知見を得ようとします。
医療の専門家にすべてを任せることはせず、なんと自分で人工心臓を作ろうとするのです。
学生の頃から根気があり多くのことを超えてきた経験があったにしても、ここまで自分でやれると思える人はなかなかいないのではないでしょうか。
妻の陽子も一緒に学会などに顔を出し、救ってくれる人を探すのではなく自分たちの手で希望を見出そうとするのです。
それだけ窮地に立たされていた、とにかくやるしかなかった状況だとしても、その推進力や打開力には本当に驚いてしまいます。
体はもちろん、精神的にもかなりの強さをもった人ですよね。そして何より、柔軟な思考をもった人。
もてる能力のすべてを使って、小さなひらめきも捨てず必ず何かに生かす人。
佳美はもちろん、宣政の会社の社員や佳美の友人たちも、その姿に励まされ一緒に引っ張られていくのがよくわかります。
こんなにパワーのある人って、なかなかいないような気がしますね。
『鈍感開発力』という章には、筒井氏について東京女子医大の研究者、岡野氏が残した言葉がありました。
——大会社はちょっとうまくいかないとすぐにやめてしまう。挑戦する意欲に欠けているのではないか。それに対し、この男は自分の目標を持っているが故に鈍感であり、無知であっても、ただひたすら目標に向かって挑戦している。
そして、やれることをやるのではなく、やらなければならないことをやるのが重要なのだ、と痛感したという。
引用:『アトムの心臓「ディア・ファミリー 23年間の記録」』
真ん中の佳美を支える奈美と寿美、可愛らしい三姉妹
読んでいると、姉の奈美、真ん中の佳美、妹の寿美の三姉妹が本当に可愛らしいです。
三人は支えあい、寝る前には病気のことを横に置いて他愛のない会話をしています。
佳美にとってももちろんそうですが、奈美と寿美にとっても佳美の存在が本当に大切なのですよね。
私自身が三姉弟なのもあって、三人がそれぞれに影響しあって生きる姿がかけがえのないもののように思えるのでしょうか。
二人はいつでも佳美を支え、佳美に優しさをもらい、姉妹にしか通じない話をしては笑いあっていたのだろうな。
その時間を思うと、愛おしすぎてつい泣けてきてしまいます。
佳美の最期…それぞれのこの先
23歳でこの世を去った佳美。
最期の病室の描写は神々しく、悲しい時間のはずなのにとても清々しく澄んでいました。
その後、会社は佳美のために開発したカテーテル事業によって大きくなり、たくさんの人を救う役目を担います。
そばで支えた姉妹や友人たちにも転機が訪れ、佳美によって繋がった縁は形を変えていきます。
佳美は誕生したときからずっと病気に苦しんできましたが、その存在感は亡くなってもなお強くあります。
佳美にとってはどんな人生だっただろう。
苦しみの多い人生だったかもしれないし、傍観する立場では何を言ってもいけない気がします。
ですが、それからのみんなの生きかたそのものが、佳美のもたらしたもの。そのように思います。
おわりに
この作品は、2024年6月に映画化します。
主演は大泉洋。このパワフルな筒井宣政さんをどのように演じてくれるのか、気になりますね。
実話なので、筒井家のある愛知県の実際のロケーションも多く出てきそうですね!
筒井さんが佳美さんのために立ち上げた東海メディカルは、現在も医療機器研究開発会社として発展を続けています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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